石原典子(旧姓・厳谷由紀子)と石原慎太郎の出会いは、二人がまだ若き青春の渦中にあった頃に遡る。慎太郎が短編小説『太陽の季節』で芥川賞を受賞し、一躍時代の寵児となった瞬間から、彼女の人生は狂おしいほどの熱量と喧騒に巻き込まれていった。文芸誌を出版する文藝春秋の資料室には、当時の文壇の熱気とともに、若き夫妻の瑞々しい姿を捉えた貴重な写真や手紙が今も大切に保管されている。
突如としてスポットライトの渦中に投げ込まれた夫を、彼女は冷徹なまでの観察眼と深い慈愛で支え続けた。熱狂と批判が渦巻く世間の風圧から家庭という聖域を守り抜くことは、並大抵の覚悟では不可能だった。早烈な才能を発揮する夫の最も近くに立ち、その創作活動の「最初の読者」であり続けた彼女の存在なくして、昭和の文学史を語ることはできない。