海外における今敏の評価を語る上で欠かせないのが、ハリウッドの映画監督たちに与えた絶大な影響関係です。インターネット上ではしばしば「『インセプション』は『パプリカ』の盗作ではないか」「『ブラック・スワン』は『パーフェクトブルー』のコピーではないか」といった過激なトピックが議論の的となります。
事実に即して検証すると、まずダーレン・アロノフスキー監督との関係は極めて密接です。アロノフスキー監督は自身の映画『レクイエム・フォー・ドリーム』(2000年)において、『パーフェクトブルー』の象徴的なカットである「バスタブの中で叫ぶ主人公」の構図を寸分違わず再現(実写リメイク権を購入した上でオマージュとして撮影)しています。さらに、バレエの世界で心身を擦り減らし、ドッペルゲンガーに脅かされる『ブラック・スワン』(2010年)のプロットや鏡を使った演出は、『パーフェクトブルー』の未麻が辿る軌跡と多くの共通点を持っています。
一方、クリストファー・ノーラン監督の『インセプション』(2010年)に関しては、ターゲットの夢に侵入するギミックや、エレベーターを使って意識の異なる階層を移動する演出、鏡のように割れる空間表現など、『パプリカ』との顕著な類似性が海外メディア(『SlashFilm』や英『Guardian』など)でも繰り返し検証されてきました。ノーラン監督自身は公の場で直接的な影響を明言していないものの、映像文法やモチーフの同期性は当時の映画界でも大きな話題を呼びました。単なる模倣の範疇を超え、今敏が編み出した「アニメーションだからこそ可能だった編集のリズムと空間接続」が、実写映画の最高峰を刺激した歴史的事実は疑いようがありません。