1970年代後半、イギリスの音楽シーンは激変の渦中にありました。セックス・ピストルズに代表されるパンクロックの台頭により、精緻なスタジオワークと華麗なステージを展開していたクイーンは、一部の音楽メディアから「過剰で時代遅れの恐竜ロック」と猛烈なバッシングを浴びていたのです。
そうした逆風の中で1977年にリリースされた6枚目のスタジオアルバムが『世界に捧ぐ(News of the World)』でした。バンドはこのアルバムで、過剰な多重録音を削ぎ落とし、より生々しくダイレクトに観客へ届くサウンドへと舵を切ります。
この劇的な転換点をもたらした直接の契機は、1977年5月に行われたイングランド中部スタッフォードのビングリー・ホール公演でした。熱狂した観客がステージ終了後、リヴァプールFCのサポーターズ・アンセムとしても知られる『You'll Never Walk Alone』を一斉に大合唱した出来事です。
ギタリストのブライアン・メイは当時の様子について、後の楽曲解説インタビューで次のように証言しています。「観客がただ聴くだけでなく、自分たち自身を表現するために歌っていた。あの夜、僕たちは『観客が歌える曲、会場全体をひとつにする曲を作らなければならない』と確信した」。
その夜の衝撃を持ち帰ったメンバーは、即座に行動へ移しました。ブライアン・メイが観客の足踏みと手拍子を想定した『ウィ・ウィル・ロック・ユー』を書き上げ、時を同じくしてフレディ・マーキュリーがピアノに向かって生み出したのが『伝説のチャンピオン』でした。
ブライアン・メイは、フレディが初めてバンドにこの曲のデモを提示した瞬間を振り返り、「フレディが『We are the champions』と歌った瞬間、あまりのストレートさに僕らは息を呑み、思わず笑ってしまった。『フレディ、本気かい? 傲慢だと叩かれるぞ』と言ったが、彼は『構うものか、これが僕らの進む道だ』と揺るぎない確信に満ちていた」と語っています。