月餅を初めて二つに割った日本人が最も驚くのが、中心部に潜む鮮やかなオレンジ色の丸い黄身の存在です。菓子の中に丸ごとの卵黄が入っているという構造は、日本の和菓子や洋菓子にはほとんど見られないため、「生臭いのでは」「なぜ甘い餡に入っているのか」と戸惑う声も少なくありません。
塩卵(鹹蛋)が入っている理由
この卵の正体は、鶏卵ではなく「鹹蛋(シェンタン)」と呼ばれるアヒルの卵の塩漬けです。生のアヒルの卵を濃い塩水や塩漬けの泥灰に数週間から1ヶ月以上漬け込むことで、白身は塩分を含んでサラサラになり、黄身は水分が抜けて油脂分が凝縮し、まるでカラスミや濃厚なハードチーズのようにねっとりとした旨味の塊へと変貌します。
月餅に鹹蛋を入れる理由は大きく二つ存在します:
- 満月の象徴(意匠的理由):黒や茶褐色の餡の真ん中に浮かぶ黄色い円は、まさに夜空に輝く「満月(明月)」そのものを表現しています。卵が1個入ったものは「単黄(ダンホアン)」、贅沢に2個並んだものは「双黄(シュアンホアン)」と呼ばれ、後者は満月が重なる極上の吉祥を表します。
- 味覚の黄金比(味覚的理由):月餅の餡は、保存性を高めるために大量の砂糖と油脂(ピーナッツ油やラード)が使われており、単体では極めて甘く重厚です。そこに塩気と動物性のコクを持つ鹹蛋が加わることで、「甘味と塩味(あまじょっぱさ)」のコントラストが生まれ、濃厚な餡の後味を劇的に引き締めてくれます。
千変万化する月餅の具材バリエーション
伝統的な月餅から最新のトレンドまで、月餅の具材は驚くほど多彩です。
- 蓮蓉(リエンロン/蓮の実餡):乾燥させた蓮の実を煮崩し、砂糖と油で丁寧に練り上げた広東式月餅の最高峰。淡い黄金色で、シルクのようになめらかな舌触りと高貴な香りが特徴です。
- 豆沙(ドウシャー/小豆餡・黒餡):小豆や小豆ペーストに黒胡麻やラードを練り込んだ定番。日本のこし餡よりも油分が多く、テリと重みがあります。
- 五仁(ウーレン/ミックスナッツ餡):クルミ、アーモンド、松の実、白ゴマ、カボチャの種など5種類以上の木の実を細かく刻み、冬瓜の砂糖漬けや柑橘の皮、時には金華ハムなどを混ぜて水飴状に固めたもの。香ばしい歯ごたえと複雑な風味が愛好家から絶大な支持を集めています。
- モダンフレーバー:近年の台湾や香港では、滑らかなカスタードを包んだ「奶黄(カスタード)月餅」、冷やして食べる求肥皮の「スノースキン(氷皮)月餅」、さらにはドリアン、トリュフ、高級チョコレートを用いた現代版が市場を席巻しています。