社内ポータルに整備された膨大なノウハウ集、毎週開催されるベストプラクティス発表会――。一見すると先進的な取り組みに見えるこれらの施策が、現場の社員の目にどう映っているのか、実態を検証すると冷ややかな現実が浮き彫りになります。
大手ITベンダーで営業職を務める30代男性は、吐露するように次のように語ります。
「本部長肝いりで『全社ノウハウデータベース』が作られ、成功事例を月1件以上投稿することが義務化されました。しかし実態は、営業成績の良い先輩が適当に過去資料を再編集して体裁を整えているだけ。一番知りたい『顧客のキーマンをどう落としたのか』という泥臭い根回しの部分は一切書かれていません。結局、誰も閲覧すらしておらず、サーバーの容量と入力時間を無駄に消費しているだけです」
また、製造メーカーの品質管理部門に属する現場担当者からも、SNSや社内アンケートで同様の疲弊の声が上がっています。「他工場で起きたミスの再発防止策として、毎月のようにチェック項目が追加され、今や日報作成に1時間以上かかっている。チェックをつける作業自体が自己目的化し、現場の注意力はむしろ散漫になっている」という告白は、形だけの水平展開がもたらす典型的な弊害です。
形式的なナレッジ共有は、共有する側には「書類作成の負荷」を、受け取る側には「消化不能なルールの押し付け」を強いるだけの二重苦になりかねません。リアルな現場で求められているのは、綺麗にまとめられたPDFではなく、「自分たちの状況にどう翻訳して使うべきか」という対話のプロセスです。