本作の恋愛描写における最大の白眉は、なんといっても照橋心美と斉木楠雄の関係性の変遷です。「神に愛された美少女」として全人類から崇拝される彼女が、なぜ地味を装う楠雄にここまで深く執着し、恋に落ちたのでしょうか。
発端は極めてプライドの高い動機でした。すれ違うすべての人間を例外なく感嘆の声「おっふ」と言わせてきた照橋さんにとって、自分を完全に無視して素通りした楠雄は、人生で初めて遭遇した「例外」でした。「何としてでもあの男におっふと言わせたい」という執念から始まったストーキングに近い追跡劇が、楠雄のさりげない優しさや陰の気遣いに触れる中で、損得勘定のない本物の恋心へと結実していきます。
一方の楠雄も、テレパシーを通じて照橋さんの内面を知り尽くしていました。外面の良さの裏にある計算高さを最初は疎ましく思っていたものの、彼女が「完璧な美少女であり続けるため」に払っている血のにじむような努力、誰の期待も裏切らないプロ意識の凄まじさを目の当たりにし、次第に敬意を抱くようになります。特に象徴的なエピソードが以下の2点です。
- ラーメン店での相席事件(第77χ):小汚い大衆ラーメン店に一人でいた楠雄の前に照橋さんが現れる回。イメージ崩壊の危機に晒されながらも、楠雄と一緒にいたい一心で泥臭いラーメンを笑顔で平らげた照橋さんに対し、楠雄は「完璧美少女の恐ろしさ」を認めつつも、彼女の覚悟に深い敬意を払いました。
- 文化祭での決定的「おっふ」(第214χ):体調不良を隠して文化祭の案内役を務め上げ、限界を迎えて倒れそうになった照橋さん。楠雄は超能力で周囲の時間を止め、彼女をお姫様抱っこして救出します。そして意識を取り戻した照橋さんが見せた無垢な笑顔に対し、楠雄は心の中で「……おっふ」とつぶやきました。
「全人類をおっふさせても、斉木だけはおっふさせられない」と悔しがっていた照橋さんですが、楠雄は読者と自分自身の心にだけ聞こえる形で、明確に彼女の美しさと気高さに屈したのです。これこそがファンから「最大のデレ回」として語り継がれる伝説の瞬間です。