さかなクンの生い立ちを語る上で欠かせないのが、少々特殊な家庭環境です。宮澤家の家族構成は、父親、母親、2歳上の兄、そして次男であるさかなクン(宮澤正之)の4人家族でした。
実父は囲碁界で「剛腕」と称された名棋士、宮沢吾朗九段です。勝負師としての気迫に満ちた父親は家庭内でも厳格であり、生き物に対して常軌を逸した集中力を見せる次男の将来を案じ、時には厳しく叱責することもあったと伝えられています。家庭内の軋轢や生活のすれ違いが重なり、両親はやがて離婚。母・景子さんが女手一つで兄弟を育てることになりました。
この過酷な局面において、母・景子さんが貫いた教育方針は今や子育てのバイブルとして教育界からも高く評価されています。学校の三者面談で「授業中も魚の絵ばかり描いている」と担任から注意された際、母親はこう言い放ちました。
「魚が好きで絵を描くのが得意なら、それでいいじゃないですか。勉強はできなくても、命を粗末にしない優しい子に育っています」
特筆すべきは、母親の無条件の愛がさかなクンだけに偏らなかった点です。特定の才能を持つ子どもがいる家庭では、もう一人の兄弟が疎外感を抱き、激しい嫉妬や確執(いわゆる「きょうだい児問題」)を生むケースが少なくありません。しかし母・景子さんは、長男の個性や趣味も同様に尊重し、兄弟を決して比較しませんでした。母が敷いた「どちらも等しく尊い」という安心の土台があったからこそ、兄は弟の特異な才能を妬むことなく、自然体で応援することができたのです。