警視庁と警察庁の最も根本的な違いは、「政策や制度を立案・統括する国の機関」なのか、それとも「現場で事件を捜査し治安を維持する実動部隊」なのかという点にあります。
警察庁は、内閣府の外局である国家公安委員会の管理下に置かれた国の行政機関です。全国47都道府県の警察組織を取りまとめ、警察制度の企画立案、予算の配分、全国規模のサイバー犯罪・テロ対策、広域重要事件の調整、交通ルールの策定などを担っています。警察庁そのものは独自の捜査本部を立ち上げて犯人を逮捕するような実動捜査部隊を原則として持たず、いわば「日本の警察組織全体の司令塔・頭脳」として機能しています。
一方、警視庁は東京都の警察本部です。大阪府警察本部や神奈川県警察本部、北海道警察などと同列の「都道府県警察」の一つですが、日本の首都・東京を守る組織であるため、「東京都警察本部」ではなく「警視庁」という固有の歴史的名称が用いられています。その管轄範囲は東京都全域であり、100を超える警察署と約4万3,000人という日本最大の警察職員数を擁する巨大実動組織です。
なぜ東京都の警察だけが「警視庁」と呼ばれるのかという疑問について、その起源は明治維新期の1874年(明治7年)にさかのぼります。日本警察の父と呼ばれる川路利良が初代大警視に就任し、首都防衛と治安維持を目的として設置された組織が警視庁でした。戦後の警察法改正により自治体警察制度が導入された際も、天皇陵や国会議事堂、各国の在外公館を抱える首都警察の特殊性を鑑み、他の道府県警察本部とは一線を画す「警視庁」という伝統的名称が維持されたのです。