群馬県を訪れた観光客の間で頻繁に交わされるのが、「ひもかわうどんは桐生名物のはずなのに、なぜ高崎駅前でこれほど並んでいるのか」という疑問です。この疑問を紐解く鍵は、群馬県特有の「粉食文化の流通構造」と「新幹線ハブ都市の集客力」にあります。
もともと桐生エリアのひもかわうどんは、製織作業で多忙を極めた女性労働者のために、手早く伸ばして煮えやすく工夫された家庭料理「おきりこみ」から発展したと伝えられています。これに対し、現在高崎駅東口側で圧倒的な行列を作っているのは、館林に本店を構える創業130年超の老舗が手がける「花山うどん伊三郎」です。ここで提供される名物「鬼ひも川」は、大正時代に開発され復刻された約5センチ幅の極太麺であり、大麦や上州麦豚を組み合わせた洗練された飲食体験として再構築されています。
高崎駅は北陸新幹線・上越新幹線が分岐し、草津や伊香保、軽井沢へ向かう結節点です。桐生や館林まで足を伸ばす時間のない県外旅行者が、乗り換えの合間に「群馬の象徴的な郷土料理」を体験しようと集中するため、駅徒歩圏内の店舗に需要が一極集中する構造が生まれています。伝統的な素朴さを残す桐生の手打ち麺と、計算し尽くされた喉越しを誇る花山うどんのスタイルは、同じ幅広麺でありながら全く異なる進化を遂げた別物と捉えるのが自然です。