夢と現実が曖昧になる当事者は、日常の中でどのような混乱に直面しているのでしょうか。医療機関のカウンセリング現場や当事者の手記、SNSや相談コミュニティに寄せられる生々しい告白を検証すると、共通する深刻な心理的孤立が浮かび上がってきます。
IT企業に勤務する30代男性の手記には、次のような切迫した記述が残されています。
「朝起きて、昨晩上司から『プロジェクトから外す』と告げられたメッセージを読んだ記憶があり、絶望しながら出社した。だがチャットツールを見ても履歴は一切ない。上司に恐る恐る確認すると『そんなこと言っていない』と怪訝な顔をされた。夢だったと分かった瞬間の安堵よりも、『自分の脳が現実を捏造したのではないか』という底知れぬ恐怖で手足の震えが止まらなかった。」
また、家事と育児に追われる20代女性のケースでは、過去の記憶そのものが書き換わってしまう「偽記憶(フォールス・メモリー)」の苦しみが語られています。
「友人とお茶をしていたとき、『そういえば去年一緒に行った熱海旅行、楽しかったよね』と話しかけたら、友人が凍りついた顔で『私、あなたと熱海なんて行ってないよ』と言ったんです。ホテルの部屋番号や食べた海鮮丼の味まで鮮明に思い出せるのに、写真フォルダを見返しても一切証拠がない。自分が信じてきた数年分の思い出のどこからどこまでが夢で、何が現実なのかが分からなくなり、夜眠ること自体が怖くなりました。」
認知心理学において、これは「ソースモニタリング・エラー(情報源モニタリングの誤認)」と呼ばれる現象です。人間は通常、「実際に目で見た外部の体験」と「頭の中で想像した、あるいは夢で見た内部の表象」を、文脈の豊かさや感覚情報の細かさで無意識に判別しています。しかし、極度の疲弊や情動の乱れによってモニタリング機能が麻痺すると、夢という虚構のシナリオに「これは現実である」という誤った認証スタンプを押してしまうのです。