走力を語るうえで軽視されがちでありながら、現場で極めて大きなタイム差を生み出しているのが「シューズの選定」と「ストライド(歩幅)への誤解」です。
近年、厚底のランニングシューズが市場を席巻しています。しかし、一般的なマラソン用厚底シューズを50メートル走で着用するのは必ずしも得策ではありません。長距離用のシューズはクッション性を重視してソールが柔らかく設計されているため、短距離スプリントで必要な「瞬間的な高荷重(体重の3〜5倍)に対する反発」をスポンジが吸収してしまう弱点があります。50メートル走で最大のパフォーマンスを発揮するには、ソールに適度な硬度(剛性)があり、地面をダイレクトに捉えられる軽量の薄底シューズや、短距離用にシャンクプレートが補強されたモデルが適しています。
また、ストライド(歩幅)を広げようとして歩数を意図的に減らそうとする試みも逆効果です。走速度は「ピッチ(歩頻)× ストライド(歩幅)」という単純な掛け算で決まりますが、ストライドを広げようと意識しすぎると滞空時間が長くなり、ピッチが激減してトータルタイムが悪化します。トップアスリートのデータを見ても、ストライドの拡大は「地面反力が高まった結果として自然に伸びる副産物」であり、意識的に脚を広げて作られたものではありません。