インターネット上の掲示板やSNSでは、「マイナス端子同士を繋いでも普通にエンジンがかかった」「アースを探すのが面倒だからバッテリーの端子に直結している」といった体験談が散見されます。しかし、整備工学や自動車保安基準の観点から言えば、これは極めて危険な行為です。
自動車に搭載されている鉛バッテリーは、充放電の化学反応に伴って微量の可燃性水素ガスを空気中に放出しています。バッテリーが上がった状態の車に外部から大電流を流し込むと、電極周辺で急激なガス発生が促されます。この状況で最後のマイナス端子をバッテリー直近に繋ぐと、回路が閉じる瞬間に微小な接続火花(スパーク)が必ず飛び散ります。
運悪く滞留した水素ガスに火花が引火した場合、バッテリーの外殻樹脂が粉砕される規模の「バッテリー爆発事故」に発展します。高濃度の希硫酸(バッテリー液)が周囲に四散し、作業者の顔面や目に付着して失明に至った事例や、重度の化学熱傷を負った事故事例は公的機関の事故事例集にも記録されています。最後の黒ケーブルを「バッテリーから離れたエンジンの金属部」に繋ぐ理由は、火花が発生する位置を水素ガス滞留エリアから物理的に遠ざけるための防護策なのです。
逆接続(プラスとマイナスの誤認)が招く壊滅的な金銭被害
もう一つの重大な事故が、焦りによる「逆接続」です。赤いケーブルをマイナスへ、黒いケーブルをプラスへ誤って接続した場合、両車の間で極めて危険なデッドショートが起こります。
逆接続を起こすと、瞬時にケーブルの被覆が熱で溶け落ち、強烈な白煙と異臭が立ち込めます。それだけでなく、オルタネーター(発電機)のダイオード破壊、メインヒューズの溶断、さらにはエンジンや車内システムを統括するECU(電子制御ユニット)の基板が一瞬で焼き付きます。近年の車両は高度な電子制御で成り立っているため、ECUの交換費用は20万円から40万円以上に跳ね上がることも珍しくありません。わずかな接続確認を怠った代償としてはあまりに甚大です。