ネット上の美術コミュニティやSNSで「情報量が多すぎて追いつかない」と定期的にバズを生み出しているのが、初期フランドル派の異才ヒエロニムス・ボスが描いた『快楽の園』です。祭壇画の形式を取りながら、そこに描かれているのは悪夢と狂騒が同居する異様な世界観です。
特に右翼パネルに描かれた「地獄」のパートは、名画の裏話や雑学まとめでも屈指の奇妙さを誇ります。巨大なナイフに挟まれた耳の怪物が人間を踏み潰し、鳥の頭を持つ悪魔が人間を呑み込んでは排泄する様が克明に描かれています。極めつきは、拷問を受ける罪人の臀部に直接楽譜が刻まれている場面です。この「悪魔のお尻の歌」は後年、音楽研究者によって実際に採譜・再現演奏され、世界中で大きな話題となりました。
一見すると画家の病的な妄想画のように思えますが、奇妙な絵画の歴史的背景を検証すると、ペストの流行や教会腐敗に揺れる15世紀末のヨーロッパで、民衆に「肉欲の儚さと罪の報い」を直観的に伝えるための寓意(アレゴリー)であったことが判明しています。恐怖と笑いは紙一重であるという人間の心理を、ボスは500年以上前に見事にカンバスへ定着させていたのです。