「低音が聞こえない」と漏らす初心者は少なくない。だが、人間の耳が認識する以上に、身体はベースの存在を皮膚で理解している。楽曲におけるコードの響きを決定づけているのは、最高音を歌うボーカルではなく、最底辺を支えるルート音だ。同じ「ド・ミ・ソ」の和音であっても、ベースが「ラ」を鳴らした瞬間に、曲の空気は哀愁を帯びたマイナーコードへと暗転する。音楽の色彩を決定する全権を握っているのは、実はベースなのだ。
さらに、ドラムのキックと共鳴してグルーヴを操るタイムキープの役割も見逃せない。拍のほんの数ミリ秒前を弾けば楽曲は前傾姿勢のアドレナリンを放ち、わずかに遅らせれば抗いがたい陶酔感を生み出す。伴奏という生ぬるい言葉では到底括れない。彼らは楽曲の心拍数をリアルタイムで操作する、いわば「影の独裁者」である。