言葉の成り立ちを理解する上で欠かせないのが、クィアの語源と歴史です。16世紀末の英語圏において、クィアはもともと「風変わりな」「奇妙な」「いかがわしい」を意味する単語でした。19世紀末から20世紀にかけて、同性愛者を侮辱・差別するスラング(蔑称)として定着していった経緯があります。
転機が訪れたのは1980年代後半から1990年代初頭のアメリカです。エイズ危機のなか、政府の無策や社会的な偏見に対する大規模な抗議運動を展開した活動家集団「ACT UP」や「Queer Nation(クィア・ネイション)」が台頭しました。
彼らは差別的な言葉であった「クィア」を自ら名乗り直すことで、差別者から言葉の力を奪い、誇りと連帯の象徴へと転換させる「言葉の再領有(Reappropriation)」を成し遂げました。「We’re here, we’re queer, get used to it!(私たちはここにいる、私たちはクィアだ、慣れろ!)」というスローガンは、当時の権利獲得闘争を象徴するフレーズとして歴史に刻まれています。