「男らしく生きてほしい」という周囲の期待。それに全力で応え続けた20代と30代。氷川きよしが抱えていた葛藤は、想像を絶するものだった。演歌という伝統芸能の世界では、男性歌手は力強く、堂々とした立ち居振る舞いが美徳とされる。しかし、幼少期から彼が心惹かれていたのは、華やかで繊細な美しさの世界だった。
「自分らしく生きたい」。その告白は、単なるビジュアルの変更を意味するものではなかった。幼い頃から抱いていたメイクやファッションへの純粋な興味、そして自らの内側に宿るフェミニンな感性を否定せず、ありのまま受け入れる宣言だったのだ。KIINA.という呼称は、性別の二元論に縛られない「ひとりの人間」としてのアイデンティティの象徴。女性らしさも男性らしさも内包したその表現力は、長年の苦悩を乗り越えた者だけが放つ気高さを帯びている。