アトリエに足を踏み入れると、紙と水、そして絵具の乾く匂いがかすかに漂う。テーブルの上には無数の筆とパレット、そしてたっぷりと水を蓄えた筆洗が並ぶ。永山氏の制作は、緻密な計算と野生的な直感がせめぎ合う緊張感に満ちている。
「水が乾くまでの数分間、紙の上で何が起きるかを見守る時間が一番面白い」。そう語りながら紙に引かれた一本のストロークは、水分量によって刻一刻と表情を変えていく。透明水彩画の醍醐味であるウェット・イン・ウェット(濡れた紙の上に絵具を置く技法)において、彼女は絵具を完全にコントロールしようとしない。水が流れるままに任せつつ、ここぞという刹那に顔料を差し込む。その判断の速さは、まるで熟練の職人か即興音楽家のようだ。