新劇の伝統と熱気が渦巻いていた昭和30年代。演劇の聖地・劇団俳優座の門をたたいた若き才能は、瞬く間に頭角を現した。情熱だけで突破しようとする若手が多かった時代、彼は常に冷徹な観察眼と緻密な役作りにこだわった。そのストイックな姿勢が、映画界の巨匠・黒澤明の目に留まったのは自然な流れだったと言える。
1963年公開のサスペンス映画『天国と地獄』。誘拐事件を巡る緊迫の人間模様を描いたこの不朽の名作で、彼が見せたシャープな演技は、邦画業界に強烈なインパクトを与えた。セリフ一つ、目線一つに宿る張りつめた緊張感。スクリーンの隅々にまで走るその存在感は、単なる脇役の域をはるかに超えていた。弟の山本圭と共に、それぞれの道で演技の深みを追求していった姿は、当時の演劇ファンにとって憧れの象徴だったのだ。