転換点となったのは、2012年公開の『おおかみこどもの雨と雪』でした。本作では細田監督と奥寺氏が共同脚本という形でクレジットされ、母と子の13年間にわたる成長記録という、従来のエンターテインメント構造とは一線を画すパーソナルな物語へと踏み出しました。
そして2015年の『バケモノの子』以降、細田監督は完全に脚本の単独執筆へと移行します。映画ファンの間では「なぜ奥寺氏と離れて自身で書くようになったのか」という疑問が長年囁かれてきました。制作現場の証言や各種インタビューを紐解くと、そこには不仲などではなく、「自身の内面から湧き出る私小説的なテーマをダイレクトに映像化したい」という映画作家としての切実な欲求が存在します。
自身のアニメーション制作会社「スタジオ地図」を立ち上げたことで、商業的な枠組みにとらわれず、自身の問題意識(育児、家族観、ネット社会の功罪など)を純度100%でフィルムに焼き付ける環境が整いました。他者の視点を挟まず、自らの感覚をそのままストーリーへ落とし込む作家主義へのシフト。これが細田守監督が単独脚本を選び続ける決定的な理由です。