犠牲者の身元確認が難航した背景には、津波災害特有のいくつもの障壁が存在した。第一に、大津波によって衣類や所持品、運転免許証などの身元を証明する品々が流失したことである。顔写真による確認すら困難なほど損傷が進んでいたケースも少なくない。
第二の要因は、時系列に伴う状態の変化だ。発災直後の3月は極寒の気候であったため、初期にはある程度の保存状態が保たれていた。しかし、数週間から数か月が経過するにつれて水死体の腐敗や白骨化が進み、視覚的な特徴は急速に失われていった。特に海底や沿岸部の泥に埋もれた遺体は、微生物や水生生物の影響を受けやすく、識別を一層複雑にした。
さらに、津波によって家族全員が同時に被害に遭うケースが多発したことも、確認を遅らせる要因となった。遺体を識別・照合すべき遺族自身が被災しているか、命を落としていたためである。情報収集の手がかりが途絶えた現場では、手探りの身元特定が長期間にわたって続けられた。