本作の最大の魅力は、1990年代後半の青春期、2000年代のすれ違い、そして2010〜2020年代の現在という約20余年のタイムラインが、記憶の断片のように美しく交錯する点にあります。主要登場人物たちの関係性は単なる四角関係や三角関係にとどまらず、家族の愛憎や格差、人生の挫折が濃密に絡み合っています。
物語の中心となるのは、CAを夢見ながらも不慮の事故によって記憶を失い、現在はタクシードライバーとして静かに生きる野口也英(満島ひかり)と、航空自衛隊のパイロットを志しながらも道半ばで挫折し、警備会社に勤務する並木晴道(佐藤健)です。ふたりを取り巻く登場人物たちは、それぞれが主人公たちの「選ばなかった別の人生」や「孤独」を象徴する重要な役割を担っています。
【『First Love 初恋』主要キャスト・登場人物一覧】
・野口也英(現在:満島ひかり/高校時代:八木莉可子):天性の聡明さと美しさを持ちながら、運命の過酷さに翻弄される主人公。
・並木晴道(現在:佐藤健/高校時代:木戸大聖):也英を一途に愛し続ける青年。情熱的で正義感が強い。
・有川恒美(夏帆):晴道の現在の婚約者。カウンセラーとして晴道の心の傷に寄り添うが、晴道の心に潜む「忘れられない誰か」の存在に怯える。
・占部旺太郎(中尾明慶):也英の同僚のタクシードライバー。也英に片想いし、不器用ながらも献身的に支える。
・向坂綴(荒木飛羽):也英のひとり息子。母と離れて父の元で暮らす中、ダンサーを目指す少女との出会いを通じて成長していく。
・古道詩(アオイヤマダ):綴が出会うストリートダンサー。自由な表現力で綴の世界を広げるキーパーソン。
・野口幾子(小泉今日子):也英の母。シングルマザーとして娘を育てるが、娘の将来を案じるあまり支配的な選択を強いてしまう。
・向坂幾男(向井理):也英の元夫であり、綴の実父。脳外科医としてエリート街道を歩む旧家の出身。
・並木優雨(美波):晴道の耳の不自由な妹。手話を通じて兄と深い絆で結ばれている。
・凡二(濱田岳):優雨の夫であり、晴道の幼馴染。並木家を温かく支える存在。
・津島昭比古(井浦新):也英の実父。幼少期に也英と離別したが、彼女の美的感性に深い影響を与える。
相関図を鳥瞰すると、也英と晴道という「運命の引力」で結ばれたふたつの惑星の周囲を、恒美や旺太郎といった「誠実に誰かを愛そうとする人々」が切なく周回している構造が浮かび上がります。悪人がひとりも存在しないからこそ、すれ違いの痛みが観る者の胸に深く突き刺さるのです。