6年もの長きにわたり扉が閉ざされたままの事態に対し、SNSやファンコミュニティでは「機材が老朽化して修復不能」「アリエルのフライング装置で重大インシデントがあったのではないか」といった真偽不明の噂が囁かれてきました。しかし、マーメイドラグーンシアター 終了の真相を探ると、事故や構造的欠陥ではなく、オリエンタルランドの興行戦略とコスト構造の大転換という極めて合理的な3つの理由が浮かび上がってきます。
1つ目の理由は、特殊フライング機構とアクロバットキャストの契約体系です。2015年4月にスタートした「キング・トリトンのコンサート」は、アリエル役のパフォーマーが客席の頭上約10メートルをワイヤー一本で縦横無尽に泳ぎ回るダイナミックな空中演技が最大の売りでした。この演出にはシルク・ドゥ・ソレイユ経験者をはじめとする高度な技術を持つアクロバット専門キャストが不可欠であり、その多くは海外オーディションによる招聘でした。パンデミックを境に渡航制限や契約解除が進み、特殊パフォーマーの確保と育成ラインが一度完全にリセットされた影響は甚大でした。
2つ目は、巨額投資プロジェクトへの経営資本・人材の集中投下です。オリエンタルランドは約3,200億円を投じた「ファンタジースプリングス」の開業および安定稼働に全精力を注ぎ込んできました。新規エリアのキャスト確保やオペレーション習熟、大規模アトラクションの安全維持にリソースを集中させる戦略のもと、既存屋内型ショーの再始動は意図的に優先順位が下げられたと分析できます。
3つ目は、安全基準の抜本的見直しと点検コストの増大です。吊り下げ式機構(フライング・リギングシステム)は、ゲストの頭上を直接飛行する構造上、パーク内のあらゆる設備の中でもトップクラスの厳格な保安基準が課されます。毎日・毎月の負荷テスト、ワイヤーやモーターの非破壊検査、緊急時の降下プロトコルの更新など、公演を行っていなくても発生する維持管理負担が非常に重い構造にありました。経費最適化を進める企業方針の中で、稼働率ゼロでの維持が選択された背景にはこうしたシビアな損益計算が存在します。