当編集部がSNS、医療Q&Aコミュニティ、そして臨床現場の歯科医師らに対して実施したヒアリング調査からは、教科書的な医学解説だけでは見えてこない患者たちのリアルな苦悩が浮き彫りになっています。
「深夜1時に大あくびをした瞬間、右あごから『ゴキッ』と鈍い音が響いて口が閉じなくなった。同居する母に訴えようにも『ア、ア』としか声が出ず、初めはふざけていると勘違いされた。筆談で状況を伝えて救急車を呼ぶか迷ったが、恥ずかしさもあり躊躇。結局、ネットで見つけた救急相談窓口経由で総合病院の当直医に連絡し、タクシーで駆け込んで整復してもらった。あの1時間の孤独と激痛は人生最悪の恐怖だった」(20代女性・会社員の手記より)
また、知恵袋や掲示板などでは「夫の顎が外れたので、YouTubeを見ながら私が親指を突っ込んで治そうとしたところ、ガクンと戻った拍子に親指を思い切り噛まれて大流血。夫の顎は治ったが、私の指が骨膜炎を起こして形成外科に通う羽目になった」という生々しい失敗談も確認されています。
臨床医が口を揃えて指摘するのは、「一度外れた顎を放置する時間の長さが、その後の予後を悪化させる」という冷厳な事実です。外れてから1時間以内の受診であれば筋肉の痙攣も局所的で、麻酔を使わずに数秒の徒手整復で整復できる確率が高いとされています。しかし、恥ずかしさや戸惑いから半日〜数日放置してしまうと、筋肉が短縮した状態で拘縮(こうしゅく)を起こし、徒手整復ではびくともしなくなります。結果として、静脈内鎮静法や全身麻酔を施して筋弛緩薬を投与しなければ戻らない重篤な事態へと進展してしまうのです。