本作がミステリーファンを唸らせた最大の要因は、巧みな時間軸の交差と「語り手の錯誤」を利用した叙述トリックにあります。物語は、椎名が巻き込まれる「現在」と、ペットショップ店員の琴美(関めぐみ)や本物の河崎、ブータン人のドルジが過ごした「2年前の過去」が並行して描かれます。
読者および観客は、「現在パートで椎名と行動している長身の美青年」を河崎だと思い込まされます。しかし、彼こそが2年後の「ドルジ」本人でした。本物の河崎(松田龍平)は重い病気を患い、すでにこの世を去っていたのです。
日本語が流暢になり、本物の河崎が着ていた服をまとい、その軽薄な口調や仕草を完璧にトレースしていたドルジ。異国からやってきた心優しい青年が、なぜ友人の皮を被ってまで危険な賭けに出たのか。その変貌のプロセスそのものが、物語の最大の悲劇を物語っています。