本作のプロットは、まったく異なる出自と目的を持つ2人の男が、35年の時を超えて交錯する重厚なサスペンス構造を持っています。伏線の数々とその回収、そして衝撃の結末を時系列に沿って紐解きます。
【発端】見つかったカセットテープと未解決事件の再取材
京都で父から受け継いだ紳士服仕立て店「テーラー曽根」を営み、妻と幼い娘と平凡ながら温かな家庭を築いていた曽根俊也(星野源)。ある日、父の遺品を整理していた彼は、黒革の手帳と1本の古いカセットテープを見つけます。手帳には英語と数字で書かれた謎の暗号メモが記され、テープをラジカセにセットして再生した瞬間、俊也の背筋は凍りつきます。
スピーカーから流れてきたのは、「きょうとへむかって、いちきろ、ばしょは、しんかんせんのたかした……」というあどけない男児の声。それは、かつて食品会社を標的に毒物混入と莫大な身代金を要求し、日本社会をパニックに陥れた「ギンガ・萬堂事件(通称:ギン萬事件)」で、犯人グループが警察への身代金受け渡し指示に使った実際の脅迫音声と寸分違わぬものでした。そして俊也は気付きます。その声は、テープに残されていた幼き日の自分自身の声だったのです。
時を同じくして、大日新聞大阪本社の文化部記者・阿久津英士(小栗旬)は、社会部長から年末の大型企画として「昭和最大の未解決事件・ギン萬事件」の特集記事の執筆を命じられます。すでに時効が成立して久しい過去の亡霊を追うことに気乗りしない阿久津でしたが、社会部時代の古巣のカンを頼りに、当時の捜査関係者や元犯人視されていた人物への再取材を開始します。
【展開】交錯する2つの視線と浮かび上がる「3人の子供」
自分が国家を揺るがした凶悪犯罪の片棒を担がされていた事実に打ちのめされる俊也は、実家の母・真由美や、父の弟である叔父・達雄が事件に関わっていたのではないかと疑念を抱きます。自らの出自と家族の真実を突き止めるため、手帳に残された手がかりを追って関係者を密かに訪ね歩く俊也。その過程で、事件に使われた子供の声が1人ではなく、合計3人の子供(男児1人、女児2人)であった事実を突き止めます。
一方、取材を進める阿久津は、事件当時「キツネ目の男」として警察にマークされていた総会屋や元左翼活動家、暴力団関係者の周辺を洗ううち、事件の脅迫テープに声を録音された子供たちの家庭環境に異常な影があったことを嗅ぎつけます。やがて、元警察官で暴力団の顧問格として事件に関与していたとされる男・生島秀樹の存在に辿り着きます。
京都、大阪、岡山と独自の調査を重ねていた俊也と阿久津は、元滋賀県警の刑事を通じてついに運命的な対面を果たします。俊也は自らが「テープの声の子供」であることを阿久津に告白。スクープを狙う記者と、人生を狂わされた当事者という利害を超え、2人は「なぜ子供たちの声が使われ、彼らは今どこでどう生きているのか」という共通の真実を暴くため、バディとして行動を共にすることになります。
【クライマックス】生島姉弟の悲劇的な運命と黒幕の正体
2人の執念の取材により、テープの声に使われた残る2人の子供の身元が判明します。それは生島秀樹の長女・生島望(原菜乃華)と、長男・生島聡一郎(宇野祥平)でした。俊也とは対照的に、この姉弟を待ち受けていたのは想像を絶する地獄でした。
事件当時、中学生だった姉の望は学業優秀で、将来は通訳になる夢を抱いていました。しかし、父・秀樹が犯行グループの金をめぐる内紛から口封じのために惨殺されたことで、姉弟の人生は崩壊します。事件の秘密を知る望は犯人グループの一味に拉致され、暴行を受けた末に命を落とし、その遺体は山中に遺棄されていました。
辛うじて逃げ延びた弟の聡一郎は、母と共に暴力団の追手を逃れながら名前を偽り、社会の最底辺を転々とする極限の潜伏生活を強いられていました。阿久津と俊也は、成人し中華料理店で過酷な労働に耐えながらひっそりと生き延びていた聡一郎との接触に成功します。自分の声が原因で姉を失い、人生のすべてを奪われた聡一郎の痛切な告白に、同じく声を使われながらも平穏な日常を生きてきた俊也は、激しい罪悪感と慟哭に震えます。
【結末】暴かれた犯行の動機とラストシーンの救い
事件の主犯格の足跡を追い、阿久津はイギリス・ロンドンへと飛びます。そこで突き止めた真犯人は、俊也の叔父である曽根達雄でした。異国の地でひっそりと暮らしていた達雄は、阿久津の追及に対して事件の全貌を語り始めます。
犯行の真の目的は、世間を騒がせた「反体制の政治闘争」などではなく、食品会社を脅迫して株価を暴落させ、空売りによって莫大な利益を得る「株価操作による金儲け」でした。さらに、学生運動の挫折を経験した達雄らが抱く「国家権力(警察)をコケにして嘲笑してやりたい」という極めて歪んだ自己顕示欲が結びついた結果だったのです。子供の声を使った理由も、「捜査員が子供の声を聞けば心理的に油断する」「録音テープを使えば犯行現場に大人が直接出向かずに済む」という、冷酷かつ合理的な手段に過ぎませんでした。
帰国した阿久津は、すべての真実を白日の下に晒す渾身の連載記事を書き上げます。そこには、国家を震撼させた未解決事件の華々しいミステリーではなく、大人の身勝手な欲望によって未来を搾取された「子供たちの悲劇」が告発されていました。ラストシーン、俊也は自らの仕立てたスーツを聡一郎に贈り、2人はそれぞれの新しい人生を一歩踏み出すところで物語は幕を閉じます。