本作のクオリティを支えたもう一つの柱が、脚本家・水橋文美江氏が紡ぎ出す滋味深いセリフと構成力です。制作統括の内田ゆき氏が当時のインタビューで語っていた通り、本作では「ドラマチックなお約束」を極力排除し、市井の人々が抱える割り切れない感情を誠実に描き出す方針が一貫して貫かれました。
脚本に書かれた繊細な心の揺れを、現場のディレクター陣が細部まで噛み砕き、視覚的・聴覚的な表現へと昇華させる作業が徹底されていました。例えば、喜美子(戸田恵梨香)と八郎(松下洸平)の心がすれ違っていく過程では、工房内の配置や2人の間にある作業台の高低差など、小道具や舞台美術の位置関係にまで計算された演出が施されていました。脚本家の確固たる世界観と演出陣の研ぎ澄まされた感性が融合したからこそ、奇跡的な完成度が生まれたのです。