捜査当局が直面した最大の障害は、「遺体が存在しない」という極限状態だった。殺人事件の捜査において、遺体は最も強力かつ決定的な直接証拠である。しかし、犯行現場となった犬舎や山林からは、肉片や骨の断片、わずかな遺留品しか検出されなかった。
当時、警察は微細な骨片からDNA型を鑑別する最先端の鑑識技術を総動員し、共犯者の証言と物理的証拠を徹底的に突き合わせる泥臭い捜査を展開した。結果として死刑判決へと至る立件を果たしたものの、この事件は「遺体なき殺人」における立証の難しさと、科学捜査の重要性を警察組織に固く強く刻み込む歴史的分水嶺となった。