人間は果たして何時間まで眠らずにいられるのか――この極限の問いに対して、科学界で最も有名な事例が1964年に米国の高校生ランディ・ガードナーが挑んだ「264時間12分(約11日間)」の断眠記録です。
当時の医療チームによる観察記録および本人の手記には、凄惨な生体崩壊の過程が記録されています。実験開始から4日目には自分がプロのフットボール選手であるという誇大妄想に囚われ、道路標識を人間と誤認。最終盤には簡単な引き算の計算途中で「自分が何をしていたか」すら忘却する重度の記憶障害と見当識障害に陥りました。
ギネスワールドレコーズは現在、参加者の健康に極めて甚大な危害を及ぼす危険性があるとして、断眠記録の公式認定を全面的に禁止しています。
さらに深刻なのは、不眠による死亡リスクの実態です。遺伝性疾患である「致死性家族性不眠症(FFI)」の症例では、視床の変性によって数か月にわたり睡眠が完全に奪われた結果、自律神経系の重篤な機能不全と多臓器不全により死に至ることが確認されています。動物実験においても、完全に睡眠を遮断されたラットは体温調節機能の崩壊と重度の免疫不全により、2〜3週間以内に敗血症で全頭が死亡するという衝撃的なデータが存在します。