吉高由里子が『蛇にピアス』のオーディションに臨んだ背景には、彼女の人生観を根底から揺るがす壮絶な出来事がありました。デビュー間もない時期、彼女は大型トラックと接触する重度の交通事故に遭い、顎の骨を折る重傷を負って集中治療室(ICU)で生死の境を彷徨う経験をしていたのです。
顔の輪郭が変わるほどの傷を負い、一時は女優生命どころか命すら危ぶまれた過酷な闘病生活。しかし、この極限状態を生き抜いたことが、彼女の中にあった「世間体への恥じらい」や「中途半端な恐怖心」を完全に消し去る契機となりました。
病室から退院した直後、顎にボルトが入った状態のまま臨んだのが『蛇にピアス』のオーディションでした。蜷川監督を前に「一度死にかけたのだから、もう怖いものなんて何もない」という異様なまでの気迫と虚無感を漂わせた彼女の佇まいは、まさに原作者の金原ひとみが描いた「ルイ」そのものでした。極限の逆境を表現の糧へと昇華させたことこそが、彼女を稀代の女優へと押し上げた最大の要因です。