ネット上のまとめ記事やSNSでは、「昔の日本人はみんな『ゑ』を上手に使い分けていた」「明治政府が伝統を破壊した」といった極端な言説が散見されます。しかし、歴史の事実を丹念に追うと、それらは単純化されすぎた誤解であることが分かります。
誤解1:庶民はずっと「ゑ」と「え」を正確に使い分けていた?
これは明らかな誤りです。文献調査によれば、鎌倉時代以降、藤原定家が仮名遣いの基準(定家仮名遣い)を定めなければならなかったほど、当時の貴族や知識人でさえ「え」と「ゑ」を混乱して書き誤っていました。江戸時代の町人が書いた手紙や浮世草子を見ても、発音が同音化していたため、表記のブレは日常茶飯事でした。「正しい仮名遣い」を厳格に守っていたのは、国学を学ぶ一部のインテリ層に過ぎなかったのです。
誤解2:「ゑ」は完全に使ってはいけない禁止文字になった?
学校教育や新聞・公用文のルールとして「使わない」と決められただけであり、憲法や法律で個人の使用を禁止されたわけではありません。短歌や俳句の世界では現在も歴史的仮名遣いとして極めて自然に使われていますし、芸名、社名、商品名、戸籍名(名前に用いる平仮名)としての使用は法的にしっかりと認められています。