展示室のハイライトは、やはり『冨嶽三十六景』シリーズだ。とりわけ世界中でオマージュされ続ける『神奈川沖浪裏』の前に立つと、波頭の砕け散る一瞬を捉えた構図の狂気的なまでの緻密さに言葉を失う。
藍色のグラデーションが生み出す圧倒的な奥行きと、荒れ狂う大波の狭間に悠然と座す富士山。北斎の大胆なトリミングと幾何学的構図は、19世紀ヨーロッパの印象派を揺るがしただけでなく、現代のデザインや映像演出の根幹にまで直結している。実物を至近距離で凝視すれば、波の飛沫一つひとつに込められた職人たちの彫りと摺りの凄まじい技術が網膜に焼き付くはずだ。