希代の美食家として知られる北大路魯山人は、その著作の中で素材本来の持つ力強さと甘みの純度を幾度となく称賛した。その審美眼が最も鋭く向けられた対象の一つが、日本料理の華である車海老だ。加熱すれば鮮やかな紅白の縞模様が浮かび上がり、生であれば透明感のある翡翠色の身が妖艶な光を放つ。
伝統的な江戸前寿司の職人たちがこの素材に心血を注ぐのは、単に見た目の美しさだけではない。熱を通すことでグリシンやベタインといった旨味成分が劇的に活性化し、酢飯と完璧な調和を生み出すからだ。一方で、生のままいただく「踊り食い」では、歯を押し返すような筋肉質の弾力と、後から静かに広がる上品な甘みが際立つ。生と火入れ、その双極の魅力において頂点に君臨し続ける理由がここにある。