デイヴィ・ジョーンズが怪物へと成り果てた背景には、シリーズ屈指の切ないラブストーリーが存在します。彼はもともと、気品ある生身の人間の航海士でした。そんな彼が恋に落ちた相手こそ、気まぐれで荒れ狂う海の女神カリプソ(作中では預言者ティア・ダルマとして登場)だったのです。
カリプソはジョーンズに対し、「海で死んだ魂を冥界へ運ぶ」という役目を与えました。その任務を忠実に果たす条件として、彼は「10年に一度だけ陸に上がり、愛するカリプソと1日だけ逢瀬を交わすことができる」という契約を結びます。ジョーンズは彼女への一途な想いから過酷な10年間の航海を耐え抜き、約束の浜辺へと向かいました。しかし、移り気な海の女神は約束の場所に現れず、彼を冷酷に裏切ったのです。
裏切られた絶望と耐え難い悲痛から、デイヴィ・ジョーンズは二度と人を愛せないよう、自らの手で胸を切り開き「デイヴィ・ジョーンズの心臓」を抉り出しました。心臓は頑丈な宝箱(デッドマンズ・チェスト)に封印され、世界のどこかへと隠されることになります。
自らの魂の役目を放棄し、死者の魂を導くことをやめたジョーンズには、海そのものからの凄まじい呪いが降りかかりました。役目を怠った罰として、彼と船員たちの肉体は徐々に海の底の生物たちと癒着し、感情を閉ざした冷酷無比なタコの怪物へと変わり果ててしまったのです。劇中で彼がタコ足の髭を使って激しくパイプオルガンを演奏し、一筋の涙を流すシーンは、怪物の奥底に眠る人間時代の悲哀を象徴する屈指の名場面として知られています。