神器の消失は、単なる国宝の喪失では済まされない政治的危機を巻き起こした。当時の朝廷において、三種の神器を保持しない天皇は正統性を欠くとみなされたからである。
後鳥羽天皇(後の後鳥羽上皇)は、草薙剣が存在しないまま即位を余儀なくされた。この「不完全な即位」という事実は、彼の生涯に深い影を落としたとされる。後に後鳥羽上皇が承久の乱(1221年)を起こし、鎌倉幕府へ無謀とも言える戦いを挑んだ背景には、正統性を欠くというコンプレックスを圧倒的な武威と政治力で払拭したかったからだとする説も根強い。海に沈んだ一本の剣が、中世日本の政治構造を揺るがす地殻変動を引き起こしたのだ。