立ち寄った神社の由緒書きをじっくり読んだことがあるだろうか。そこには、千年を超える生々しい人間の歴史が刻まれている。たとえば学問の神として名高い菅原道真を祀る天満宮や天神社は、全国津々浦々に点在している。平安の昔、無念の死を遂げた一人の貴族が、怨霊として恐れられ、やがて知恵と学芸の守護神として昇華していった劇的なストーリーが、目の前にある小さな拝殿の奥に潜んでいるのだ。
商売繁盛を願う稲荷神社、武勇を讃える八幡宮、海の安全を見守る住吉神社。足元にある杜は、単なる緑地ではない。幾世代にもわたる先人たちが、疫病を恐れ、豊作を祈り、家族の無事を願って積み重ねてきた祈りの地層だ。その記憶に触れた瞬間、見慣れた街並みがまったく異なる陰影を帯びて迫ってくる。