インターネット上や周囲のアドバイスには、モラハラの実態を理解していない危険な誤解が蔓延しています。それらを鵜呑みにすることは、被害を長期化させる最大の要因になりかねません。
最も致命的な誤解は、「夫婦なのだから腹を割って本音で話し合えば分かり合える」という言説です。対等な人間関係を前提とする通常の夫婦喧嘩であれば対話は有効ですが、上下関係による支配を目的とするモラハラ加害者に対話を挑むことは、自ら相手の土俵に上がり、新たな攻撃の材料を提供する行為に等しいと言えます。感情をぶつければ「ヒステリックな妻」とラベリングされ、論理的に指摘すれば「生意気だ」「夫をバカにしているのか」とさらに激しい攻撃を引き起こします。
また、「夫婦カウンセリングに行けば改善する」という期待も大きな落とし穴を孕んでいます。前述の通り外面が極めて巧みなモラハラ夫は、カウンセラーの前で「悩める誠実な夫」を完璧に演じ切ります。その結果、カウンセラーすら丸め込まれ、「奥さんも少しご主人に優しく接してみては?」とアドバイスされてしまい、妻側がさらなる絶望と孤立に追い込まれる「二次被害」の事例が後を絶ちません。
さらに「子どものために離婚は避けるべき」という思い込みも危険です。父親が母親を日常的に見下し、罵倒し、無視する家庭環境は、児童虐待防止法における「面前DV(心理的虐待)」に該当します。歪んだ夫婦関係を見せ続けられて育った子どもは、将来同じような加害者になるか、あるいは他者から不当に虐げられることを受け入れてしまう被害者体質を受け継ぐリスクを背負わされます。子どもの健全な成長を守るためにも、毅然とした境界線を引くことが求められます。