皮膚がんの代表格として知られる悪性黒色腫ですが、粘膜に生じる口腔悪性黒色腫は、皮膚のものに比べてリンパ節や血流への転移が格段に早いという極めて厄介な臨床的特徴を持っています。好発部位は「上あごの天井部分(硬口蓋)」と「上顎の歯肉」であり、この2箇所で全体の約80%を占めます。次いで舌の黒い斑点や頬粘膜での発生が報告されています。
では、日常の中で悪性と良性の見分け方をどう意識すべきでしょうか。皮膚がんの鑑別に用いられる国際的な「ABCDルール」は、口の中の病変においても極めて実用的な警戒基準となります。
1つ目の視点は「Asymmetry(左右非対称性)」です。良性のほくろや血豆は、中心から半分に割ったときにほぼ均等な丸や楕円を描きます。これに対し、悪性黒色腫は地図のようにいびつで、左右非対称な広がりを見せます。
2つ目の視点は「Border(境界の不明瞭さ)」です。正常な組織との境界線がくっきりと引けず、ぼやけていたり、インクを水に垂らしたようにギザギザと周囲へにじみ出ている場合は厳重な注意が必要です。
3つ目の視点は「Color(色彩の不均一性)」です。単一の黒色や赤紫色ではなく、漆黒の中に褐色、赤、青、さらには白色やピンクが混ざり合い、色ムラが目立つ状態は悪性腫瘍の典型的なサインとされます。
4つ目の視点は「Diameter(大きさ)」です。直径が6mm以上を超えている場合、あるいは元々は小さかったものが短期間でサイズアップしている場合は、即座に専門機関で細胞レベルの確認を行わなければなりません。
特に危険視すべきは、成人の口の中に突然できた黒い点が数週間のうちに隆起し、表面から出血を繰り返したり、歯がぐらついてきたりする進行パターンです。痛みがないからと軽視し、自覚症状が「しこり」や「潰瘍」に発展した段階では、すでに粘膜深部へ浸潤しているケースが散見されます。