日常の会話やWeb上のコラムで頻繁に目にする「類は類を呼ぶ」という言い回しですが、国語辞典や故事ことわざ辞典を調べても独立した見出しとして掲載されている例はほとんど見当たりません。日本の正統なことわざとして古くから受け継がれてきた成句は、正しくは「類は友を呼ぶ」です。
この表現の起源は、古代中国の儒教経典の筆頭である『易経』(繋辞上伝)に記された「方以類聚、物以群分(方は類を以て集まり、物は群を以て分る)」という一節にまで遡ります。意味の似通った「類」という言葉を重ねた「類は類を呼ぶ」は、「類は友を呼ぶ」と「似た者同士」「同類」などの語感が口語表現の中で混交して定着した、いわゆる慣用的な混種語(ハイブリッド表現)と位置づけられます。
興味深いのは、両者が使われる文脈とニュアンスの差異です。伝統的な「類は友を呼ぶ」は、志を同じくする有志が集まるような好意的・中立的な場面で広く用いられてきました。これに対し、俗用である「類は類を呼ぶ」は、SNSや職場の噂話において「悪口ばかり言う人たちの集まり」や「トラブルメーカー同士の結託」といった、皮肉や批判を込めたネガティブな同類関係を強調する際に選ばれる頻度が極めて高い実態があります。
言葉の理解を深めるため、代表的な類語と対義語を整理しておきます。同質の人々が集う現象を指す類語には、次のような古典的成句が並びます。
- 同類相求む(どうるいあいもとむ):同じ性質・趣味を持つ者は自然と引き合い、仲間を作る意。『戦国策』を出典とする由緒ある表現。
- 牛は牛連れ、馬は馬連れ:同類同士が一緒に行動するのが最も自然で都合がよいという庶民的な訓戒。
- 物以て群をなす(ものもってぐんなす):万物はその性質に応じて自然とグループを形成するという哲理。
一方、対極の概念を示す対義語としては、「水と油」や「氷炭相容れず(ひょうたんあいいれず)」のように、性質が根本から異なり調和できない関係を表す慣用句が該当します。また、個人の好みの多様性を認める「蓼食う虫も好き好き」も、同質性の強制に対比される概念です。