首を動かしたときに発生する音には、大きく分けて2つの種類が存在します。一つは指の関節などを曲げた際にも生じる「ポキッ」「パキッ」という破裂音、もう一つが首を回すたびに連続して擦れるような「ゴリゴリ」「ジャリジャリ」という軋轢音(あつれきおん・クレピタス)です。
前者の「ポキポキ音」は、関節を包む関節包の内部にある首のポキポキ音と関節腔の気圧変化によって生じます。関節腔を満たす滑液に急激な陰圧がかかることで微細な気泡が発生し、それが弾ける瞬間に音が響く「キャビテーション現象」が通説とされています。
一方で、多くの人が慢性的な違和感として訴える首がゴリゴリ鳴る原因と理由は、気泡の破裂ではなく物理的な組織同士の摩擦です。首の深層にある筋肉が過度の緊張によって硬化すると、筋肉を覆う筋膜が滑らかに滑らなくなる筋膜癒着とゴリゴリ音が発生します。さらに加齢や姿勢不良に伴って頚椎の椎間関節を保護している関節軟骨がすり減ると、骨同士や変性した軟部組織がダイレクトに擦れ合い、鈍い摩擦音を反復して響かせることになります。
ここで疑問となるのが、首がゴリゴリ鳴る痛くない理由です。「骨や組織が擦れているなら激痛が走るはずだ」と考えがちですが、関節軟骨そのものや深層筋膜の一部には痛覚受容器(痛みを感じる神経終末)がほとんど分布していません。そのため、内部で激しい摩擦や摩耗が起きていても、神経根や脊髄が直接圧迫される段階に達していなければ、摩擦音と重だるさだけが生じる無痛状態が続く構造になっています。この「痛みの欠如」こそが、病態の潜在化を招く大きな盲点です。