首の構造は複雑怪奇な多層構造を誇りますが、そのなかでも下顎と喉頭の間隙を橋渡しする要石が舌骨上筋群です。茎突舌骨筋(けいとつぜっこつきん)は、顎二腹筋後腹の内前方を並走する細長い紡錘状の筋肉であり、頭蓋骨底部と喉をつなぐ強固なサスペンションとして機能しています。
解剖学的な起始停止を確認すると、起始は頭蓋骨下面の側頭骨にある細長い突起物である茎状突起の後外面です。そこから斜め前下方へとまっすぐ走行し、舌骨体と舌骨大角の境界部付近に停止します。この停止部付近には解剖学的に極めて興味深い特徴が存在します。停止直前で筋腱が2つに分かれ、その間を「顎二腹筋の中間腱」が貫通して舌骨へと向かう構造をとっている点です。この二重構造によって、首を激しく動かした際にも両筋の滑走性が保たれ、舌骨が安定して牽引されます。
茎突舌骨筋の主要な作用は、舌骨を「後上方」へと力強く引き上げることです。舌骨が後上方に挙上されると、舌根部が喉頭蓋を押し倒す運動がアシストされ、気道が物理的に遮断されます。つまり、口の中にある食塊を咽頭から食道へスムーズに送り込み、気管への侵入を防ぐ防波堤の役割を果たしているのです。
運動を司る神経系にも特異性が見られます。舌骨上筋群の多くが咀嚼筋と同じ三叉神経(下顎神経)の支配を受けるなかで、茎突舌骨筋の支配神経は顔面神経(第VII脳神経)の茎突舌骨筋枝です。胎児期の発生段階において第2咽頭弓(鰓弓)に由来するため、表情筋や顎二腹筋後腹と同じ神経ネットワークに組み込まれています。口元や表情の細やかな動きと、喉奥の引き上げ運動が脳幹レベルで密接に連動している理由がここにあります。