大手質問サイトの知恵袋やSNSを定点観測すると、手のひらのほくろに怯える人々の痛切な声が連日投稿されています。「左手のひらに黒い点が突然できた。皮膚がんだと確信して3日間眠れなかった」「怖くて皮膚科に行けない」「毎日スマホのカメラで接写して拡大し、ノイローゼになりそう」といった投稿が散見されます。
しかし、実際の皮膚科クリニックの診察室で展開される光景は、ネット上の悲観的な言説とは大きく乖離しています。都内の皮膚科専門クリニックで年間数百件の皮膚腫瘍診断を手掛ける医師の集計によると、「手のひらに急に黒い点ができた」とパニック状態で駆け込む患者の約85〜90%は、単なる外傷性の血豆(点状出血)または良性の母斑であるという現実があります。
現場で特に問題視されているのが、「スマートフォンのカメラによる自己診断の罠」です。現代の高性能スマートフォンは微小な黒点を過剰に高精細に補正するため、光の加減によって輪郭がギザギザに見えたり、実際には存在しない色のムラが強調されたりします。結果として、ネット上の「皮膚がん症例写真」と見比べて勝手にメラノーマだと断定し、針で皮膚をほじくって細菌感染を引き起こしたり、民間療法で焼き取ろうとして重篤な瘢痕を残す事故が後を絶ちません。肉眼やスマートフォンのレンズ越しに見る像と、医療機器が捉える病理組織学的像は完全に別物です。