直売所やこだわりスーパーの果物売り場で、表面がデコボコに波打ち、まるで菊の花のように筋が入った異形のみかんを見かけたことはないでしょうか。見た目の不揃いさから敬遠されることも少なくありませんが、これこそが知る人ぞ知る極上果実、通称「菊みかん」です。
菊みかんが甘い理由は、栽培期間中の徹底した土壌乾燥にあります。樹に過酷な乾燥ストレス(水飢餓状態)を与えると、果実内部の房(じょうのう膜)が水分を失って縮小し、その外皮が果肉の凹凸に合わせて引き連れることで、外皮に菊の花のような放射状の筋が現れます。このストレス下で樹は自らの浸透圧を高めて水分を保持しようとするため、果実内の糖度が極限まで濃縮され、通常のみかんを圧倒する糖度13〜15度以上を叩き出すのです。
同様の生理現象はサイズの選別にも現れます。市場において「小粒みかんが甘いとされる真相」も、この水分制御と密接に結びついています。一般にSサイズや2Sサイズに分類される小粒果は、夏場から秋口にかけて適切な水分制限を受けた樹冠の外側・日当たりの良い枝先に結実します。果実が肥大しなかった分、果汁1滴あたりの可溶性固形物(糖分)が凝縮されており、大玉(L〜2L)と比較して果汁の糖酸比(甘みと酸味のバランス)が劇的に向上するのです。
生産者の証言によれば、贈答用の見栄えを重視する百貨店ルートではMサイズが主流となる一方で、みかん農家自身が自宅用や親しい知人への配慮として真っ先に取り置くのは、不揃いな菊みかんや引き締まったS〜2Sサイズの小玉果実であるといいます。見た目の美しさと食味の絶対値が必ずしも比例しない点は、果実選別における最大の妙味と言えます。