ネット上のQ&Aや料理系コミュニティでは、「鍋の焦げ落としで重曹を熱湯に入れたら激しく泡立ったが、これは理科の実験と同じなのか?」「料理用の重曹をフライパンで炒めたら炭酸ナトリウムになるのか?」といった疑問が散見されます。
結論から言えば、日常で目にするこれらの現象はすべて、理科の授業で習う熱分解そのものです。市販のベーキングパウダーを使ってホットケーキやカルメ焼きを膨らませる原理は、まさに炭酸水素ナトリウムが生地の中で加熱され、微細な二酸化炭素の気泡を放出し、蒸発する水蒸気とともに生地を押し広げる作用を利用しています。
しかし、ネット上で見過ごされがちな危険な盲点が存在します。それは「生成物の皮膚に対する刺激性の違い」です。
炭酸水素ナトリウム(重曹)はpH8前後の非常に穏やかな弱アルカリ性であり、入浴剤や胃腸薬、掃除など素手で扱っても肌を傷める心配はほとんどありません。ところが、これをフライパン等で加熱して得られる炭酸ナトリウムは、pH11を超える強いアルカリ性へと変貌を遂げます。強アルカリ性の水溶液は、皮膚の主成分であるタンパク質を加水分解して溶かす性質を持ちます。理科の教科書に「炭酸ナトリウムの水溶液が手についたら、すぐに大量の水で洗い流す」と厳重に注意書きがされているのは、この劇的な危険性の変化があるためです。身近な物質だからと侮り、熱分解後の物質を素手で不用意に触ることは極めて危険な行為なのです。