ネット上の医療情報や健康系動画において、最も多く見受けられる誤解が「膝の痛みはすべて軟骨の摩耗が原因であり、軟骨成分を補えば治る」という短絡的な言説です。しかし、整形外科学会の知見が示す通り、軟骨には血管も神経も通っていません。骨同士が完全に接触して骨膜の神経が刺激される重度変形を除けば、初期から中期における膝の痛みの発信源は、関節包や滑膜、そして膝蓋下脂肪体などの軟部組織です。
ここで見落とせないのが、変形性膝関節症と膝蓋下脂肪体の深い関連性です。関節症が進行すると、関節内で慢性的な炎症性サイトカイン(痛みを誘発する化学物質)が放出されます。この刺激を受け続けた脂肪体は、自律的に炎症を起こして線維化し、関節包や周囲の腱とベッタリ張り付く「癒着」を起こします。本来は膝を伸ばすときに前方に滑り出し、曲げるときに後方奥深くへと引き込まれるはずの脂肪体が動かなくなることで、関節全体の力学的な歯車が狂ってしまうのです。
もうひとつの深刻な誤解は、「痛いところを親指でギューギュー強く揉みほぐせば血流が良くなって治る」というマッサージ信仰です。痛覚センサーが異常に過敏化している炎症組織を力任せに圧迫すれば、内部組織が微小断裂を起こし、防御反応としてさらに硬化を招くだけです。「良かれと思って毎日強くマッサージしていたら、翌週から歩けないほど腫れ上がった」というケースは、臨床現場でも後を絶ちません。