痛みの話題には、都市伝説的な誇張や致命的な誤解がつきまといます。ネット上のまとめ情報を鵜呑みにすることで、初期対応を誤り命を落とすケースすら後を絶ちません。
第1の誤解は、「心筋梗塞は必ず胸が引き裂かれるように痛む」という思い込みです。日本循環器学会の報告でも示されている通り、高齢者や糖尿病患者の場合、神経障害によって典型的な胸痛が現れない「無痛性心筋梗塞」が一定数存在します。しかし、典型例における心筋梗塞の前兆は極めて明確です。左胸の圧迫感だけでなく、左肩から腕、首、下顎、あるいはみぞおちにかけて締め付けられるような違和感が広がる「放散痛」が頻発します。「胃もたれや肩こりだと思っていたら数時間後に心不全で倒れた」という悲劇は、この放散痛の見落としから生まれています。
第2の誤解は、上腹部の痛みを単なる胃痙攣と自己判断してしまうケースです。三大激痛の隠れた主役である急性膵炎の初期症状は、みぞおちから背中へと一直線に突き抜ける激烈な痛みです。アルコールの過剰摂取や胆石が原因となることが多く、激痛のために体を真っ直ぐ伸ばすことができず、エビのように前屈みになってうずくまる姿勢(胎児位)をとるのが特徴です。自己消化が進むと多臓器不全を引き起こし、死亡率が急上昇する極めて危険な救急疾患です。
そして第3の誤解が、「激痛=即座に死ぬ病気」あるいは「痛みが引けば治った」という判断です。尿路結石の場合、石が膀胱に落ちた瞬間にあんなに苦しんだ痛みが嘘のように消失します。しかし、それは石が体外へ排出されたことを意味しません。痛みが引いたからと放置すれば、尿管の狭窄や無機能腎を引き起こすリスクが残ります。