声が出ないという症状に直面した際、インターネット検索や医療相談で最も頻繁に混同されるのが「失語症」や「場面緘黙症(ばめんかんもくしょう)」との差異です。これらは原因となる器官や病態水準がまったく異なるため、正確な鑑別診断が不可欠となります。
まず、失声症と失語症の違いの根幹は「発声器官の機能障害か、脳の言語中枢の破壊か」という点にあります。失語症は、脳梗塞や頭部外傷によって大脳の言語野(ウェルニッケ野やブローカ野など)が損傷を受けることで発症します。そのため、声そのものは出せても「適切な単語が思い出せない」「相手の言葉の意味が理解できない」「文字が書けない・読めない」といった高次脳機能の障害が前面に出ます。一方の失声症は言語中枢に一切の異常がなく、思考力も語彙力も完全に保たれており、筆談やキーボード入力を用いれば健常時と変わらない高度なコミュニケーションが可能です。
また、小児期や思春期に多く見られる場面緘黙症との違いについても整理が必要です。場面緘黙症は不安症群に属し、「家族の前や自宅では普通にお喋りできるが、学校など特定の社会的場面に入ると一切話せなくなる」という環境依存性を示します。これに対して失声症は、特定の場面に限らず自宅や一人の空間であっても一貫して声が出せない点が特徴です。