天白磐座遺跡を語るうえで切り離せないのが、巨石群の南麓に鎮座する式内社・渭伊神社(いいじんじゃ)と、この地を本拠とした名門・井伊氏との関係です。
渭伊神社は、平安時代の『延喜式神名帳』にもその名を残す古社であり、玉依比売命(たまよりひめのみこと)や品陀和気命(応神天皇)などを祀っています。しかし社殿の裏山そのものが神域であり、社殿建築が成立する以前の原初的神道形態――すなわち山や巨石そのものを御神体とする自然崇拝(アニミズム)の系譜を、背後の薬師山が色濃く残している点に最大の学術的特徴があります。
戦国時代、井伊谷を治めた井伊氏にとって、渭伊神社とその背後に控える磐座は一族の興亡を見守る守護神でした。井伊谷の共保公出生の井戸からほど近いこの聖域は、中世武士団の精神的支柱として尊崇を集め続けました。
大河ドラマ『おんな城主 直虎』では、幼少期のおとわたちが木剣を交え、将来の契りを交わす印象深い舞台として描かれました。放送から年月を経た2026年現在も、現地を訪れると「直虎たちがここに立ち、一族の行く末に思いを馳せていたのではないか」と実感させる静寂と風格が漂っています。ただの観光名所として消費されることなく、千数百年に及ぶ信仰の連続性が保たれているからこそ、訪れる人々の胸を打つ空間として生き続けているのです。