成人が蚊に刺された場合、刺された直後からかゆみが生じ、数時間から半日ほどで赤みがおさまるケースが大半です。しかし乳幼児や学童期前の子供では、刺された当日はほとんど目立たず、翌朝や2日後になってから皮膚が握り拳大に硬く腫れ上がり、熱を帯びる現象が頻発します。この違いを生み出す最大の要因が、虫の唾液成分に対するアレルギー反応と遅延型反応の時間差にあります。
虫刺されによる皮膚反応は、過去にその虫に刺された回数と体内の感作状態によって、以下の5段階の免疫ステージをたどることが日本皮膚科学会の研究などでも知られています。
- 第1期(無反応期):生まれて初めて刺された段階。抗体ができていないため、刺されても腫れやかゆみは出ない(乳児期初期)。
- 第2期(遅延型反応のみ):刺された数時間から翌日以降に激しい赤み、硬結(しこり)、水ぶくれが出現する(乳幼児期)。
- 第3期(即時型+遅延型):刺された直後からかゆくなり、翌日にも再び強い腫れがぶり返す(幼児期から学童期)。
- 第4期(即時型反応のみ):刺された直後にかゆみと蕁麻疹様の発赤が出るが、数時間で速やかに引く(青年期〜成人期)。
- 第5期(無反応期):長年の反復感作により免疫が寛容になり、症状がほとんど出なくなる(高齢期)。
幼児の体はまさに「第2期から第3期」の過渡期に位置しています。昆虫が吸血する際に注入する唾液腺物質(抗原)に対し、遅れてやってくる細胞性免疫が過剰に応答するため、子供の虫刺されがひどく腫れる理由の根幹は異常事態ではなく、身体がアレルギー抗体を獲得していく自然な生体防御反応そのものです。しかし、皮膚の角質層が成人の約半分の薄さしかない子供は、炎症による血管拡張と組織液の滲出を物理的に抑え込むことができず、パンパンに風船のように膨れ上がってしまいます。
さらに見逃せないのが、刺した相手が蚊ではなく「ブヨ(ブユ・ブト)」や「ヌカカ」などの野外害虫であるケースです。ブヨと蚊の症状の違いとして、蚊が針状の口器を毛細血管に刺して吸血するのに対し、ブヨは皮膚を噛み切って出血した血液を吸います。そのため傷口に点状の出血斑が残り、噛まれた直後よりも半日後から耐え難いかゆみと強い熱感を伴う激しい浮腫が起こります。公園の草むらやキャンプ場、水辺に出かけた後に足首まわりが丸太のように腫れている場合は、ブヨによる咬傷を強く疑う必要があります。