日本の神社建築において、伊勢神宮に代表される「神明造」は最も原初的かつ格式高い様式とされています。しかし、総本山である伊勢神宮は20年ごとに社殿を完全に新築して建て替える「式年遷宮」を厳格に繰り返しているため、古代の木材そのものが数百年を超えて残ることはありません。
一方、仁科神明宮に現存する本殿・中門・釣屋は、寛永13年(1636年)に造営された当時の部材がそのまま残されています。神明造の構造をそのまま維持した建築物としては日本最古であり、これが国宝に指定されている最大の理由です。
では、なぜこの地に古代建築が奇跡的に残されたのでしょうか。その鍵は、仁科神明宮における「式年遷宮の変遷」にあります。
仁科神明宮でも中世までは伊勢神宮と同様、20年に一度社殿を新しく造り替える遷宮が行われていました。ところが江戸時代に入り、地域の財政事情や社会情勢の変化に伴って、1636年の造営を最後に「全解体新築」から「部分的な修復・屋根の葺き替え」へと遷宮の形式がシフトしました。社殿を壊さずに手入れを重ねて守り継ぐ方針へと転換した結果、桃山時代から江戸初期の卓越した宮大工技術と、古代神明造の古式ゆかしい姿がそのまま令和の現在へと受け継がれたのです。
境内から見つかった27枚におよぶ棟札(国指定重要文化財)には、室町時代から連綿と続けられてきた遷宮の記録が克明に刻まれており、歴史の連続性を証明する第一級の史料となっています。