彼が選んだ「同居しない結婚」という変則的な構造を解き明かすには、少年時代の壮絶な記憶を避けて通ることはできない。中学生のとき、突如として両親が不在となり、残された自宅で極貧生活を余儀なくされた。駄菓子で空腹を凌ぎ、電気やガスが止まる極限状態を生き抜いた体験は、彼の精神に深い影を落とした。
「家族」という概念そのものに対する不信感と恐怖。それが、愛する妻や子供を得てなお、同じ屋根の下で暮らすことを躊躇させた真因である。自分自身が幼少期に味わった絶望を再現してしまうことへの恐怖が、あまりにも大きすぎたのだ。形式にとらわれず、離れて暮らすことでしか家族を守れないと信じ込んでいた男の悲痛な葛藤がそこにはあった。
俳優として評価が高まる一方で、誰にも言えない秘密を抱え続ける生活は精神的にも限界を迎えていた。先輩俳優への相談や、何より妻の深い理解と包容力によって、彼はついに自らの過去と対峙する勇気を得た。同居へと踏み切った瞬間、彼の表現者としての深みもまた格段に増すこととなったのである。